再帰性
2008.10.13
朝4時に起き、夜10時には就寝の今日この頃…………。
先日のロンドン行きの機内に持ち込んだ本は「ソロスは警告する」であった。
この本はヘッジファンドで膨大な資産を得たカリスマ投資家ジョージ・ソロス氏の著書である。氏は今年初めに出版されたこの著書の中で、欧米主導型金融政策の矛盾とバブルの崩壊はどのように起こるのかということを予想警告しているのだが、この予想については現在進行形で見るとして、書籍の中でとても興味深かったのが、氏の実践理論である「再帰性」という思考方法であった。
「再帰性とは、参加者の見方と事実そのもののありようとの間に成り立つ一種の循環性、両者の間の双方向的なフィードバックが生み出す円環(ループ)だと見ることができる。人は直面する状況そのものをもとに判断を下すわけではなく、その状況の認識あるいは解釈にもとづいて決断を下す。彼らの決断は状況に影響を与え(操作機能)、状況の変化は参加者の認識も変える(認知機能)。」(文中より抜粋)
ここで言う参加者とは、何かを得るために積極的に行動を起こす者と捉え、上記を要約すると、 「再帰とは、人間と周囲の出来事の双方が互いに影響を与え合うことで、変化し続ける相関的なイメージ」ということだ。非常に抽象的な言葉だが、読み進んで行くうちに、この書籍は金融市場を舞台にした著者の半生を描いた伝記であり、その哲学的な思想に興味を持ったのである。
デザインにおいても機能形態色彩が与える心理的な要因やアフォーダンスに代表される「認知機能」などは、今やごく一般的なテーマであるが、さらにユニバーサルデザインやエコロジー的な働きを付加した“理解ある”市場創造への積極的な操作が行われている。但しその状況の認識あるいは解釈には、その時期特有の雰囲気の中での“思い込み”もあるかもしれないと、日々自問自答することも確かだ。
「二つの機能(操作機能と認知機能)には、前後関係はなく同時に作用する。フィードバックに前後性があれば、事実から認識へ、新しい事実から認識へという一定の事象の連なりが生み出されるだろう。だが認知機能と操作機能は同時に発生する。その結果、参加者の認識も、実際の状況の展開も不確定的になるのだ」(文中より抜粋)
さて、今月末から始まる「東京デザイナーズウィーク」に今年も作品を出展する。
デザイナーとしての社会参加の方法を“カタチ”で模索しつつ、最近良く耳にする「かたちだけではなく、本当に必要なもの」とは、一体どんなものだろうかと考える時に、この「再帰性」という言葉がふと頭をよぎる。
「再帰とは、人間と周囲の出来事の双方が互いに影響を与え合うことで、変化し続ける相関的なイメージ」…………デザインが「人間」と「周囲の出来事」の双方に影響を与えていくことができるならば、その相関的なイメージを“カタチ”で表してみたい。「かたちだけではなく、本当に必要なもの」を見つけるために、言葉に表せない“カタチ”を突き詰めてみたいと思っている。