曲者たち
2008.09.13
「旅の準備は徹夜で行う」のが基本なのだが、海外ということで深夜インターネットのホテル探しに奔走し、連日の寝不足。先程ようやく済んで一安心の今日この頃。
マングローブチェアの英文カタログが完成した。オンデマンド印刷で計500部、三つ折りの両面印刷である。
カタログのデザインも自分で行ったのだが、問題は写真の撮影だった。書籍「VW Designs」では、プロのカメラマンに撮影して頂いたのだが、その後塗装を変えたり、多少形状を修正したりで、発送直前まで手直ししたため時間切れ。結局自分で撮る事にした。
撮影は都内下町の河川敷。猛暑の中、イスを担いで土手を上がり場所探し。座ること無く、突然草むらに寝そべる姿を皆不思議そうに眺めている。すると草の中をガサガサと動くものがこちらへ寄ってきた!もしかして“へび?”と一瞬思ったが、散歩途中のゴールデンレトレバーが、“なんだこれ?”と不思議そうな顔でマングローブチェアをクンクンしているではないか。
“これはいい絵だ”と思い、シャッターを切ろうとすると、片足上げてマーキング!?……直前に抱きかかえ、いっしょに寝転がりながらの撮影であった。
今回、撮影に使用したカメラは、シグマのDP-1である。カメラマンの横木安良夫氏が “この曲者(くせもの)カメラ、どう使ってやろう” と言う程のかなりマニアックなカメラだ。
簡単に言えば、大型デジタル一眼レフタイプの心臓部である撮像素子を、そのままをコンパクトなボディに押し込めたカメラで、画質を優先し、手ぶれ補正などの便利そうな機能を一切省いた最新のコンパクトデジタルカメラが、このDP-1というカメラである。
発売時、「デジタル一眼はもういらない!?」という話題が出る程で、モノ好き待望の(もちろん賛否両論あり)カメラだったこともあり、期待を込めて購入。直後ウキウキ気分で撮影し、さっそくマックに取り込んでみたら、ほぼ全ての写真がピンぼけ。“なんだ〜この画質!一体どこがいいの?”とあせりまくり、そこからこのカメラとの格闘が始まるのであった。
最近出版され即購入した「DP-1マニアックマニュアル」(横木安良夫氏著)の序文には、以下のようなことが書いてあった。
“思い出して欲しい。かつて写真を撮ることは決してたやすいことではなかった…DP1を使っているとそんな時代を思い出す。撮影のタイミングをはかるということは、周囲を観察することだと。ファインダーをのぞくより、肉眼で、いや五感で周りを観察しながら撮ったものだ。………周囲を感じながら撮れば写真が上達する。”
今の時代……なんて声も横目に、その後も格闘は続いているが、とにかくぶれないようにしっかりとカメラを持ち、ピントを合わせ、息を止めてそっとシャッターを押す。こんな面倒なことが普通に感じられるようになったのが何だか嬉しい。そして今製作中の作品もかなりの曲者だから、曲者同士の格闘の記録をしっかりとこのカメラで撮影している。
“失敗することの大切さを教えてくれる”この曲者カメラを持って、イギリス名物の薄曇りの美しい風景を撮ってみたいと思っている。
鍾乳洞なカタチ
2008.09.06
また連日の猛暑。涼しい電車の中で何気なくiPhoneの天気画面を押すと、ロンドンは日中で16℃!?……早くも逃げ出したい気分の今日この頃である。
9月に入り、来月後半に開催される「東京デザイナーズウィーク」に出展する作品の実制作が始まっている。
つい先日、職人さんから“ある程度カタチになった”との連絡があり、確認のため工房を初訪問した時のこと。ワクワクドキドキの中、突如目の前に現れた制作途中の作品を前にして、思わず「ビンゴ!」と叫んだのであった。
彫刻的なフォルムの(椅子のような)実験的な作品は、とにかくやってみないと分からない事だらけ。よって作りながら考え、すぐその場で試し、また考える。純粋に自分の身体で感じたことを、伝えながら制作を進めていくことになるのだが、これが実現したのも、快く引き受けてくれる職人さんとの出会いがあったからだ。いつものことながら「モノづくりは人づくり」を実感している。
工房ではとにかく座り、修正し、また座る。その間の職人さんとの長いやり取りの中で、自分にも分からなかった多くの発見があった。
昨年制作したマングローブチェアの職人さんから教えられたのだが、直線部分の全く無い彫刻的な造形の制作では、基準をどこに置くかが最も重要であり、これを誤ると思ったカタチにはならないとのこと。ねじりやひねりの多い造形の中で基準を見つけるには、全体を把握する多くのイメージが必要であり、3DCGのレンダリングを活用し、何度も打合せを重ねたことを思い出す。
今回は全く異なる素材だが、原寸3面図と多くの視点から見たレンダリングを元にした打合せの中で、中心から等間隔の側面断面図を基準にしたいとのこと。以前バルサで作る恐竜の骨格模型を見て、何かの参考になると思い自宅に飾ってあったのだが、今回はまさにこれだ!
自らモデリングした3Dデータを、CAD上で100ミリピッチに切断し、各断面図を作成すると、図面だけでは分からない内部のカタチ、まさに人間の身体の内部のような、ところどころ穴のあいたカタチが表れてくる。そこで職人さんがつけた、この作品の呼び名は「鍾乳洞なイス」。これにも「ビンゴ!」。
先程、デザインコンセプト等を記入した出展原稿を提出した。
職人さんがつけた「鍾乳洞」をイメージした「洞窟」という名を取り入れた作品名に急遽変更した。自分自身とても気に入っている。
ロンドン行きは一週間後。いろいろとやることは多いが、「○○洞窟○○」という名の作品の完成を楽しみにしている。