コンセプトデザイン
2008.05.16
新学期のスタートと現場前の慌ただしさの最中、気分転換を兼ねて、久々に書店に突入!。小走りで計4冊の書籍を購入した。その中の1冊、デザイン誌「 AXIS 」6月号の特集「コンセプトデザイン - 未知なるものを創り出す」は、実に読み応えのある内容であった。
プレゼン時に“今回のデザインコンセプトは~”と開口一番に言う人が多いようだが、この“コンセプト”とは、一体どんな意味なのだろうか?「AXIS」誌に連載中の川崎和男氏による「デザインの言葉-デザインボキャブラリーの再定義」での解説を要約すると
“哲学的な意味としては「概念」を表す。歴史的にコンセプトはそのままアイデア、発想を総括的に表す言葉として使われてきたが、常套的な手法であり手段になった現在、デザインはコンセプトそのものを創作する行為であるということにもなる”
あらゆるものに先立ってあるものが“コンセプト”。「未だ見たことがないキャラクターやモノ、環境あるいは世界を創造する」ことができるのが、コンセプトデザイナー。以上のことから、デザイン(の)コンセプトではなくコンセプト(自体を)デザインできるか?ということが、今デザイナーに問われている。
以下「AXIS」誌で取り上げられていた数名のコンセプトデザイナーの言葉を紹介したい。
“私はルネッサンスを理想としています。あの当時の天文学から数学、美術、建築、文学など何についても語ることのできる、知識と知性溢れるルネッサンス人が理想なのです”(ステファノ・マルツァーノ /フィリップスデザインCEO)
“「アイデアはテクニックを超える」というのが、私の信条です。つまりアイデアがくだらないものだと、どんなに高価な道具を使って絵を描いても、何もならない。それは高価なくだらない絵でしかありませんから”(シド・ミード / ビジュアルフューチャ
ーリスト)
“ほとんどの演出家は、誰かが先にやった手法を「俺の方がもっとうまくできる」と思いながら仕事をしています。僕はそうしたことにあまり興味がない。50℃の水を90℃に上げた、10℃に下げたというのが一般的な演出論。どれだけ熱くしたか、冷たい感覚にさせたかといったことでなく、僕は沸騰させたい。液体を気体にするように、概念を転換させたい。足し算や引き算には興味がないんです”(河森正治 / 演出家、メカデザイナー)
ブレイクスルーを感じさせる自信に溢れた言葉に多いに刺激された後、未だ見たことの無い、新たなプロダクト開発への情熱が、次第に溢れて来るのであった。
GDAYB
2008.05.04
GW中の土日はのんびり仕事!と気合十分のはずが…久々に見たウェブサイト「UNIQLOCK」の撮影場所が多摩美の図書館( 伊東豊雄氏設計 )に変わっており、アーチ構造の内部の様子がとても良く分かり、つい長居をしてしまった。よって全く仕事にならず………。
さて、5/9から2008年度グッドデザイン賞の審査応募が始まる。今回はマングローブチェアを応募しようと思い、今までの受賞作品を調べていると、昨年度、惜しくもグッドデザイン賞金賞を逃したモノに目が止まる。
個人では買えそうもない高価なモノだが、一度でいいから乗ってみたいモノ。「ホンダジェット」のデザインにとても興味がある。
空力的には不利と言われていた、航空機の翼の上にジェットエンジンを取り付けるというタブーに挑戦し、翼はアルミの削り出し、胴体はハニカムサンドイッチ構造により、標準の後部胴体エンジン・マウントデザインよ
りも低抗力を獲得に成功、また機体に取り付けられたエンジンサポートが全くないので、内部キャビンスペースを最大限に広くすることができたというから、この目で確かめたいと、WEB上で紹介されているテスト飛行映
像を何度も観ている。とまた仕事にならない。結局何もしてないGW………。
ホンダジェットは2012年の引き渡しへ向けて、テスト飛行中の6人乗り小型飛行機だが、すでに100機を超える受注があるという。そしてその受注第一号機の納入先が、建築家の故黒川紀章氏だったというから驚いた。
これは叶わぬ夢になってしまったのだが、氏の乗りモノ好きが半端ではないことが改めて分かる。(ちなみにホンダのスーパーカー、次期NSXも発注していたという)
以上のことから、今年のGWはGD(グッドデザイン)鑑賞ざんまいにすることに決めた!よって書籍「ジャパンデザイン グッドデザインアワード・イヤーブック 2007-2008」(GDAYB)を購入し、のんびりと眺め
ていると、
“ ホンダジェットやNSXに乗って選挙活動する建築家の姿を見たかったなあ〜 ”
などと、今になって、ふと思うのであった…………
「アキッレ」再発見
2008.04.22
先日行われた「 カラーセッション2008 」に展示されていた緑色のマングローブチェアは、紙のように薄く、若葉のような軽やかな雰囲気がとても良かった。とにかく秋のロンドン展示の時期には、紅葉のような色とりどりのマングローブチェアを並べて見たいと思っている。
そして現在あるプロダクトの発表を控え、最終試作と展示ブースのデザインを同時に行っている。今回は “見せすぎないで魅せる”という空間をにしたい。よって空間の「開く」「閉じる」を操作し、展示されたプロダクトがより引き立つようにしたいのだが……さっそく詰まり、いつもの気分転換開始!手元にある本を開くと、とても興味深いことが書かれていた。
「アキッレ・カスティリオーニ 自由の探求としてのデザイン」(多木陽介著)である。
いまだ愛される、このデザイン界の巨匠の魅力は何なのかということについて、今までそれほど語られていなかったと思う。よって待望のこの書籍を読んだのだが、思わぬところでの発見があった。
アキッレ・カスティリオーニと言えば、アーチ状の照明器具「アルコ」、多数の電球を配置し、大きな一つの電球のような現代版シャンデリアの「タラクサクム88」など、照明器具のデザインが多いイメージがあったが、もう一つ、氏が生涯をかけて取り組んだものとして、展示空間のデザインがあり、その数は480点にものぼるというから驚きである。そしてそこには自身のプロダクトデザインに共通するカスティリオーニデザインの最も本質的な目的の一つ〈利用者との対話〉が非常に良く表れていたのだった。
私自身、展示会場のデザインを多く手掛けていることもあり、興味深く見たのだが、書籍の中で紹介されている展示会場の写真を見て、その斬新なアイデアにハッとさせられた。
ライオンの檻の中に子供部屋のインテリアを閉じ込めたり、イスを風車のように重ねて展示したり、巨大なビンの中にモノを展示することにより、展示するモノの特徴を引き出し、誰もが瞬時に理解できるような
自由でダイナミックな空間構成は、まさに舞台装置のようだった。これら「魔法の庭」と言われた空間は、サーカスのようでもあり、会場という舞台を動き回るのが主役の観客という巧みな演出が行われていた。
とにかくアキッレ・カスティリオーニ再発見という感じで一気に読み終わり、自身の展示デザインに戻る。
しかしあの展示のインパクトが大きく、頭から離れない。実際にここを訪れる事ができたなら、思わず「ア、キッレい!」、「アキッレるほどすばらしい!」とか言っていたんじゃないかと思う…………
ユーモアこそ、アッキレから学んだ最大のコミュニケーションなのである………アッ、キレないで下さい。
「アキッレ・カスティリオーニ 自由の探求としてのデザイン」は、小さなプロダクトから都市計画まで縦横無尽に駆け巡る一人のデザイナーの生き方を描く心に残るお勧めの書籍である。