秋へ向けて
2008.07.22
久々の更新。今月初めは急遽神戸へ。
師匠の講演を聞く事ができ、いつもながら刺激大。のんびりしてはいられない。その後すぐ秋へ向けて走り出した。
9月にロンドンで行われる家具/インテリアプロダクトのトレードショー100% Design Londonへの招待が正式決定し、同時に新型マングローブチェアの制作に入っている。背丈が100mm伸び、少し大人になった姿を早く見てみたいものだ。
さらに10月の東京でのデザインイベントに出展する作品の制作打合せに入っている。
普段の仕事では、色々な条件や要望の中で試行錯誤し、他者の意見も積極的に取り入れながら、次第にものが出来上がっていく。しかしながら、実験が主である個人の作品制作となると、自分の自信の無さや決断への迷いが自暴自棄となり、実現への夢を自らが諦めてしまうこともある。その恐れを振り払い、“今しかない”と制作に踏み切ったものが、今回の作品である。
締め切り間際になって、この作品に添える言葉を考えていると、自分自身何故このようなカタチが生まれたのだろうか?と思い、言葉がなかなか見つからない。言葉を当てはめようとすればする程、伝わらないのではないかと、また言葉に振り回される。
普段のような「デザインの動機やコンセプト」という言葉から解放され、純粋に「こんなモノがあったらいいなあ」という想いからの出発、まさに粘土をこねるように、作りながらカタチが変化して行く作業の中で、思いも寄らないカタチの発見がある。この時の喜びを“素直に表現すれば良いのだ”と気付くまで、かなりの時間が経った。そして次々と言葉が出て来たのであった。
さて、iPhoneを初日に入手して10日程経った。独特な文字入力にも慣れ、日に日に快適さが増している。GPS機能やウェブ検索もいろいろと役に立っており、指先での操作も板について来たようだ。
さらにiPhone用に作られたフリーウェアやシェアウェアも日々増えているので、今後のカスタマイズも楽しみの一つになっている。
昨日、マングローブチェアを河原で撮影。緑の自然と同化した姿は、存在を消しつつも、また大地から生えたような存在感があり、とても馴染んでいた。秋の紅葉の時期には、枯れた色のマングローブチェアを是非撮りたいと思っている。
携帯雑貨
2008.06.22
「プロダクトデザイン年鑑 2008」が出版された。「モノ作り業界 初のイエローページ」というタイトルで、これだけ多くのプロダクトデザイナー/デザイン事務所が紹介されている書籍は初めてだと思う。
この中に当社も紹介されているのだが、デザイナーのプロフィール、使用ソフトウェア、そして多くの作品が載っており、私自身大いに刺激を受けている。
さて、先日の大阪出張中に読んだ本は「学校の勉強だけではメシは食えない!」である。これは携帯電話のバッテリーケース制作やテルモの痛くない注射針等の開発で有名な岡野工業社長 岡野雅行氏の著書だが、自信の無い若者の悩み相談に対し、「江戸っ子」気質満載で答える岡野氏の言葉は、実に痛快で楽しかった。
古くはライターや口紅のホルダー、新しくは携帯電話のバッテリーケース制作のように、 一枚の金属の板を何度もプレスし、円筒形に絞るものを「深絞り」という。かつては東京の下町の地場産業だったものだが、現在「深絞り」の職人は少なく、継承が危ぶまれている。だが、この昔ながらの技術=ローテクが、現在のハイテクを支えているのだから、モノづくりに必要な技術にローもハイも無いのである。
この著書の中で印象に残ったのが以下の話だ。
“これ以上変わりようがない、完成した形をなんて言うか知ってるかい?誰でも知っている言葉だよ。それは
「雑貨」というんだ。”
中国語で雑貨とは「完成された技術」や「成熟した技術」という意味だそうだ。すると、今や誰でも常に持っている携帯電話も「雑貨」なのだろうか?
そこで「携帯電話のデザインロジック」という書籍を読むと、数々のデザイン携帯開発ストーリーがあり、手掛けたデザイナーのインタビューもとても興味深いものがあった。その中で佐藤可士和氏の言葉が印象的だった。
“クルマの場合でもまったく現実性のないプロトタイプを作ることがありますね。それが本当にできるならすごいと思いますが、僕はわりとリアリストで……それこそアップルのようにプロトタイプのようなものが本当に動くところまでいくなら素晴らしいと思いますし、挑戦してみたいと思います。”
そんな中、iPhoneの日本発売が決まった。それも1ヶ月後という早さ。普段iPod Touchを愛用している身にとって、今までにないタッチスクリーンの操作感は実に快適で楽しく、手放せない「携帯雑貨」と言えるモノになっている。
今後世界70カ国で販売するiPhoneという1つのプロダクトが与える衝撃は未知数だが、台風の目になることは間違いないだろう。鎖国状態の中、独自の進化を遂げた日本の携帯ビジネスが今後どう変わるのか、当分の間この注目のプロダクトから、目が放せない。
伝統の逆襲
2008.06.02
職人さんの工場へ向う往復3時間の電車の中で、一気に読んだ本がある。「伝統の逆襲ー日本の技が世界ブランドになる日」 デザイナー奥山清行氏の著書である。
以前、奥山氏の著書として「フェラーリと鉄瓶」を読んだのだが、海外でのデザイナー経験から見た日本の「ものづくり」の現状を一刀両断。自らを「黒船」と名乗り、問題点を指摘していた姿がとても印象的だった。
その後の活躍と共に二冊目の著書「伝統の逆襲」はさらにパワーアップした内容であり、氏のデザイン哲学と「ものづくり」への情熱が伝わる一冊である。
「伝統の逆襲」は、奥山氏の目で見た「職人」のあるべき姿とその可能性を中心に描き、氏が経験したアメリカ(GM)、ドイツ(ポルシェ)、イタリア(ピニンファリーナ)、そして日本での「ものづくり」の中で、「カイゼン」や「カンバン方式」に代表されるように、自らから進んで改良し、開発と生産を同時に行うことができる日本の職人の実力は、群を抜いているという。
しかし一方で「職人」の地位や待遇は、これらの国の中で最も低いともいう。大量に均質なものだけをつくることが目的となり、開発と生産が次第に分離し、日本経済を支えてきた高度な職人芸の価値は見捨てられ、技術の伝承も途絶えようとしている。それに代わって価値とされたのが、短期間で低コストな「ものづくり」だったと………。
価値の競争を放棄した後に残るのは、価格の競争しかない。イタリアの「ものづくり」のような価値の創造のために、デザイナーのアイデアと職人技の復活による「ものづくり」が、日本再生のカギになると、奥山氏が自ら立ち上げたのが「山形工房」だ。
工場での長い打合せが終わった後、職人さんの元へこの本を置いて帰った。
そして奥山氏3冊目の著書「創造の1/10000」が出版された。全ての文章が見開き完結となっており、「人生を決めた一枚のスケッチ」など背景には多くの美しいデザインスケッチが紹介されていて、これまた多くの刺激があった。
「迷ったら、やれ」「やらないよりは失敗しろ」という奥山氏の言葉が頭から離れないので、学生に紹介したのだが、自分が言われているようで………痛かった。