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Designer's Blog  2009

What a wonderful “Design” world!

NY
2009.5.29

icff.jpg 5.14の朝、前日の夜までかかった手作りのカタログ500部をトランクに詰め込み、NYへ旅立った。

 肌寒い雨のNYでマスク姿は皆無。一度ホテルに寄り、その後すぐ会場へ向う。長旅の疲れでボーッとしていたが、ここはやはりマンハッタン。古い町並みの中に高層ビルがそびえ立つ風景は、まさにフュージョンシティ。会場のジャビッツセンターまで30分程“上を向いて〜♪”歩いていると、次第に気分が高揚して来た。荷物も無事到着し、会場のセッティングも問題なく終了。その日は早々とホテルへ戻り、熟睡。

 翌日は予備日ということで、夕方までつかの間の観光day。セントラルパーク沿いにあるグッゲンハイム美術館を訪れた。フランク・ロイド・ライトの建築で有名なこの美術館では、ちょうどライト展が行われており、多くの人で賑わっていた。
 円形の吹き抜け天井から降り注ぐ光が、真っ白な壁に反射拡散し、内部は非常に明るくとても心地よい。吹き抜けに沿って螺旋状にスロープがあり、壁沿いにライトの図面や模型が展示されていた。まずは下から歩いて上へ上り、その後下りながらのんびりと作品を見た。スロープのツルツルの床を滑りながら展示を見るというのは、疲れも少なく、実に気分がいいものだ。また展示してあるライトの図面に沿って置かれた真っ白な模型が、実に良くできていたのが印象に残っている。

 さて、今回出展したICFFは北米最大のコンテンポラリーファニチャーフェアだが、ミラノサローネなどと比べるまでもなく規模的には小さい。だがNYという場所柄、デザインやアートに関して興味がある方々が多く来場し、またこの時期はNY Design Weekと称して、他のイベントも同時に開催されていることもあり、多くの方が訪れていた。
 私の出展場所は“JAPAN by DESIGN”という日本の代表的なデザインを紹介するコーナーを囲んだ場所にあり、色彩豊かなメイン会場と比べ、日本ブースは全体がダークで落ち着いた空間になっていた。そのメイン会場とJAPANコーナーを繋ぐ通路の最前列に、色彩豊かでまた彫刻的な作品を置いたということもあり、多くの方が足を止めてくれ、人が途切れる事がない程大盛況だった。

 ニューヨークの人々は実に気さくに声をかけてくれる。グリーンとピンクのMangrove Chairには多くの方が座り、板バネのようにしなる背のクッションを試し、この薄い素材は何?表面の仕上げは?と質問も多く、「美しい」という言葉を何度も聞く事ができた。ブースを訪れたあるジャーナリストの方が「デザインと芸術の間を歩く美しい作品」と評してくれたことが実に嬉しい。

 この薄く軽快なイメージのMangrove Chairに対し、塊を削ったような造形のOrganic Cave Chairは、また違った意味で反響があった。どうやって成形したのか?見る角度によって色の変わる表面は何?と多くの方から質問され、また座るというより“またぐ”というスタイルに当初は戸惑いながらも、次第に自分好みのポジションを見つけ、多くの人が楽しんでくれた。こちらの評価は「成形する者にとって、悪夢を見るような造形だ」とのこと。これも実にうまい表現である。

 そして今回初出展の新作が「Canon Helical Shelf」である。これは螺旋状に曲がる4本のパイプの中に、黄金楕円の棚が回転しながら取付けられており、植物のツタように限りなく上部へ伸びて行く様を表したものである。パイプが二重螺旋を描いていることからも「DNA Shelf」と説明をしたら、皆すぐに理解してくれた。他の二つの作品は背の低いものなので、中心に背の高いこのシェルフを配置したことで、ブース全体が引き締まった感じだ。

 とにかく今回のNYでの反応は、当初の予想を大きく超えるものだった。先程のジャーナリストの方の言葉の通り、私の作品は“デザインとアートの間”にあるとのことで、現代アートに非常に敏感なNYの人々から、とても暖かい言葉をいただく事ができた。

 帰国後一週間程経つが、いまも多くの方々からメールを頂いている。中には実際に欲しいと言って下さる方々も多くいる。その言葉に応えるために、現在ある程度まとまった数のMangrove Chairの制作を開始した。高度な職人さんの手作業で作られるモノなので、時間と労力が非常にかかるが、一つ一つ丁寧に仕上げられた日本のモノ作りが、海を超えて人々の心に届いたことが何よりも嬉しい。

 長い間大切に育てた芽がいま大きく育ち、しっかりと地に根をはろうとしている。Mangroveの根のように…………