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Designer's Blog  2009

What a wonderful “Design” world!

パイオニア
2009.1.15

torroja.jpg 遅ればせながら、明けましておめでとうございます。
という訳で、年末年始はどこへも行かず、のんびりと調べものをしたり、図面を書いたりして体調万全のはずが……仕事始めに風邪をひき、今週からが本当の仕事始めという感じ。

 とにかく巷のニュースは「先が見えない」という報道ばかりだが(今まで「先が見えた」試しがあったかな?)、そんなことはいざ知らず、私自身はますます「モノ作りってすばらしいなあ」と感動に浸っている。

 感動の一つは、休みの間に読んだ「エドゥアルド・トロハの構造デザイン」に載っていたトロハの設計手法とその美しい造形の数々にある。トロハはコンクリートシェルの設計においてパイオニアであり、主に1930〜60年代にスペイン国内で活躍した建築家、そして構造技術者である。
 特に印象的だったのは、1936〜39年に起こったスペイン内戦において、爆撃により自らの建築も被弾する中で、倒壊せずに残ったものと倒壊したものも含めて、ある意味身を削ってまで、構造的な実証を果たした点である。ちなみに同じスペイン人の建築家/構造設計者であるフェリックス・キャンデラは、スペイン内戦後にメキシコへ亡命し、コンクリートシェルを用いて、多くの独創的な建築を手掛けたというのも、非常に興味深いものがある。

 この書籍では建築、橋脚、ダムなど多くのトロハ作品を取り上げ、最終案に至るまでのデザインの変化の過程をスケッチや写真を用いて分かりやすく説明しており、構造的側面=「論理的思考」と美的側面=「イマジネーション」の双方を知る上で、非常に貴重な実例が紹介されている。そしてこの書籍の最後には、トロハの遺書が紹介されており、協力者への深い愛や次世代を気遣う言葉はとても感動的であった。

 最近はあまり見られないが、薄肉鉄筋コンクリートシェルの構造物は、きわめて少ない材料で大きな空間を作ることができ、また形態においても非常に可能性のある構造だと思っている。そして以前から構造と形態の整合性や美の基準に関しての論議は多く行われているが、トロハはこの著書の中で次のように述べている。

「特定の問題を解決するために最もふさわしい形態を考え出すということは、イマジネーションの問題であるのか、あるいは専門的訓練にもとづく論理的思考の結果であるのだろうか。私はこの二つのいずれかというよりは、むしろ両方であると考える。理論による裏付けの無いイマジネーションだけでは、このような設計に到達できなかったであろうし、他方、論理的演算過程は、あまりに理論的、決定論的であって、それによってこのような設計が必然的に導かれるという事は、期待できなかったであろう」

「見せる構造は、美しくなければならない」………構造のスペシャリストであるトロハの造形の多くは、高い芸術性を感じさせる。では論理的思考とイマジネーションの融合によるデザインの決定を、トロハどのように行ったのだろうか?
「新しい形が出現するには、イマジネーションのひらめきが必要である。そして、それはもっとも予期せぬとき、創造しようと思ってもいないときに起こることが多いのである」

 イマジネーションのひらめき=インスピレーションを大切にする偉大な芸術家「エドゥアルド・トロハ」。今年最初に刺激を受けた人物である。

さてもう一つ、モノ作りのパイオニアの感動話は次回ということで。
本年も宜しくお願いいたします。