ノンセンス
2009.6.30
頻繁に工場を訪れている今日この頃。
何かに迷ったり、大きな決断の時に開く本が何冊かある。
その中の一つであり、出版後130年程経った現在も多くの人々に読まれ、影響を与え続けているこの物語の名は「アリス」。
古い順から「地下の国のアリス」「不思議の国のアリス」そして「鏡の国のアリス」の三冊が自宅の本棚に並んでおり時々開いてみると、その奇想天外なストーリーとキャラクター達に夢中になり、結局最後まで読んでしまうのである。
作者のルイス・キャロル(本名はチャールズ・ラトウィッジ・ドジソン)は、数学教師の傍ら、牧師、写真家としても活動し、アリスの他にも多くの著作を残した人物である。その中には数学に関する話題も含む日々の活動の影響が見え隠れし、物語を読む上で多くのヒントがあると言われている。また挿絵を担当したジョン・テニエルの表情豊かなイラストが印象的で、一度見たら忘れられないという人も多いことだろう。
それでも「大の大人がアリス?」と思われるかもしれないが、子供の頃「不思議の国のアリス」を初めて読んだ時(確か小学校の教科書にも出ていたと思う)、テニエルのイラストの(不気味な)印象が大きく、少女アリスの冒険活劇ということだけは何となく理解できたが、正直この物語の意味は良く分からないままでいた。
その後時は遠く過ぎ、デザイナーの話や美術芸術関係、数学の著書の中にもアリスの話が多く出ることに気づき、ルイス・キャロルが「不思議の国のアリス」を出版した歳の頃になって、再度じっくり読んでみると、意味のない単なる「ナンセンス」ではなく、いわゆる「ノンセンス」といわれる「とんち」のような会話の中には、数学などの論理的な思考を通してこそ深く理解できるということが分かり、この想像の世界の旅は、今も私に多くの創造力を与え続けている。
数年前、たまたま入った書店で「ルイス・キャロル解読 不思議の国の数学ばなし」という本を見つけた。これは!と思い手に取ってみると、また多くの発見があることに驚き「不思議の国」と「鏡の国」の二冊を同時に開きながら、この物語に隠された数学的な意味を調べた。さらにルイス・キャロル晩年の著書「シルヴィとブルーノ」は、数学や幾何学的な解釈が、物語の本筋になっていることを知り、「アキレスと亀」などにも興味が湧いたことを思い出す。以下「鏡の国のアリス」の中で個人的に印象に残った言葉を紹介してみたい。
アリス 「とても暗くなって来たわ。雨になるのかしら」
トゥィードルダム 「いや、降るとは思わないよ。少なくとも、この傘の下ではね」
アリス 「でも、傘の外は降るかもしれないでしょう」
トゥィードルディー 「降るかも それは雨に任せるさ」
アリス 「ことが起こる前に、それを思い出すことなどできませんわ」
白の女王様 「なんとも貧弱な記憶なのね、未来の記憶がないなんて」
アリス 「では陛下が一番よく覚えていらっしゃるのはどんなことですの」
白の女王様 「ああ、それは再来週に起こったことよ」
とにかく刺激的な言葉がたくさん含まれているアリスの世界。このようなことが私達の住む世界で実際に起きたらどうなるのか?と、時間と空間について想像を膨らませるのはとても楽しい。
以上「鏡の国」への憧れからか、私が最もよく使うCADのツールは「ミラー反転」である。
つい最近も工場へ行き、手作りのマングローブチェアを前に、「左右を同じ感じに。ミラー反転!」などとつい言ってしまうのであった…………